松田響輝と彼の父親が考え込んでいると、その部屋に彼の母親が慌てて入って来た。そして母親は二人の顔をかわるがわるに見てから、呼吸を整えて話し始めた。

「二人とも驚かないでよ。今この前の服部弁護士から電話があって、かの俳優の死刑判決が下りたって言っていたわ。もちろん最高裁に控訴することはできるでしょうが……。でもあの服部弁護士は控訴しないみたいなのよ。」

「なぜ?あんなに無実だって言っていたのに。何か決定的な証拠でも出たのか。」

松田響輝の父親は不思議そうな顔をして尋ねた。

「さあ。でもあの服部弁護士、何だかさっぱりしたような、電話の声だけなんだけど、少し喜んでいるようにも感じたのよ。だからあえて控訴するのでしょうって聞いたら、そんなことしても死刑には変わりありませんよ。それにあの俳優も今はすべてを受け入れるって言っているそうよ。」

「へぇー。やっぱり美鈴さんを殺したのはあの俳優だったんだね。」

松田響輝はホッとしたようにそう言った。

「まあこれで良かったんだな。もう少しで多くの人を疑うような嫌な想像をするところだったよ。もうこの事件のことは、これで忘れよう。」

松田響輝の父親も二枚の紙を片づけながらそう言った。それを見ながら松田響輝は思い出した。

「でもお父様、ひとつ疑問が残ります。美鈴さんはあの俳優の血のつながった妹だったのですよね。だったらなんで殺すのですか。」

「それはあの俳優が死刑を免れようと、適当なことを言ったのだよ。美鈴さんは荼毘に服されて、住んでいたマンションも持ち物もすべて処分されて、検察が兄妹ではないという証拠を見つけられないと考えて、そんなことを言ったのだ。」

「でもあの俳優さんの妹だという証拠もなくなってしまっているのだから、証明もできないじゃないですか。」

「つまり、裁判で殺人の動機を失くして、うやむやにしたかったのだろう。」

「そうかなあ」

松田響輝は納得はできなかったが、確かにそう言う考え方もあると思った。

投稿者

ほたる

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