父はしばらく黙っていたが、顔を上げてもう一度話を始めた。
「あの俳優が社長のご令嬢と婚約し、結婚しようとしていることに怒っている。と言っていたのは美鈴さんのマネージャーさんでしたよね。でもあの俳優は美鈴さんの兄だと証言している。しかし芸能界ではお互いのためそれを隠して、恋人のように振舞っている。だから最初は美鈴さんとは仲良く付き合っているよと警察に証言している。」
「何が言いたいのですか。お父様。」
「あの俳優の証言をすべて信じるならば、美鈴さんのマネージャーさんの話おかしくないか。たとえお互いの仕事のために兄妹であることを隠して、恋人のように振舞っていても、社長のご令嬢との婚約に怒るかなあ。しかもあの俳優は仲良くしているといっているなら、話は兄妹で合わすだろう。」
「お父様は美鈴さんのマネージャーさんが共犯者だというのですか。」
「いや二人では無理だ。この犯行はもっと多くに人が関わっている。最低でも四人か五人は関わっている。そうでないと美鈴さんの動きはマネージャーさんが何とか調べるとしても、あの俳優の動きを特にあの日のホテルに着くタイミングが狂えば、あの女優さんは彼を待ち伏せして、ながく外で居たら不自然に思われる可能性が出るので、逐一報告するものがいたはずだ。」
「そんな人がいますか。」
響輝はじっと2枚の紙を見つめて考え込んでいた。しかしそんなことのできる人は見当たらないと確信して、紙から目を離して父の方を見て言った。
「やっぱりそんな人はいませんよ。美鈴さんが妹だなんて言うのは、あの俳優の苦し紛れの嘘ですよ。結局捜査を混乱させて、何とか言い逃れするつもりなんですよ。」
「いや。美鈴さんの殺人を言い逃れできても、あの俳優は三年前の殺人を自供している。極刑は免れないよ。それでも美鈴さんのことは殺していないと言い続けているってことは、やはり彼女を殺した犯人を見つけて欲しいのだろう。」
父の言葉に響輝は納得したが、その反面とても悲しい気持ちになった。(あの女優さんや美鈴さんのマネージャーさんが彼女を殺したなんて……。)