日が暮れて薄暗くなったリビングに、明かりも点けないまま、一人の男性がソファーに座ってぼんやりしていた。手には革のベルトが握られていた。その革のベルトには赤いものがこびりついていた。その男の足元には、苦悶の表情で固まったように動かなくなった一人の女性が、横たわっていた。
女性は下着姿で首には絞められた跡と、そこに何筋もの爪でもがきつけたであろうひっかき傷から血がにじんでいた。彼女の手の指は爪が全部剥がれ、血が流れた後があり、近くの床に血に染まった爪がいくつも落ちていた。どうやら首だけではなく、床も爪で引っ掻いたのであろう。
彼女の腕や足や顔にもたくさんの痣があった。口からは何度か吐血したのであろう。口のまわりに固まった血の跡があった。長い時間苦しみ抜いて死んだ証拠である。ソファーの男は無表情のまま、黙ってその彼女を見ていた。
玄関のチャイムが鳴った。男は何の反応もしなかった。3回チャイムが鳴った。『ガチャ』と音がして、ドアは開いて、誰かが入って来た。
「和葉さんどうだったのですか。うまくいったんですか。しかしドアは鍵くらい閉めておかないと……。不用心だな全く。和葉さんいるんでしょう。返事してくださいよ。入りますよ」
そう言って一人の男性がリビングに入って来た。そしてその光景を目の当たりにした途端、その場に座り込んでしまった。
「こ、これは……。和葉さん……和葉さんですか。光希さん、これはいったいどういうことですか。光希さん、光希さん……」
入ってきた男性は携帯電話を取り出して、警察に通報すると、ソファーに座るもう一人の男性の肩を何度か揺すったが、ボ~としたまま反応しなかった。
「光希さん……。なぜ……」