川本修次は高級住宅街に来た。その中でもひときわ大きい豪邸の前に立って、インターフォンを鳴らした。しばらくして40歳代の女性が出てきた。そしてその女性はこの豪邸のメイドであった。セミロングの髪を後ろで一つに束ねて、白のシャツに紺のタイトスカート、しっかりとした感じの女性だった。
「わたしは川本修次と申します。オンラインの英会話スクールを経営しているものですが、いつもこちらのお嬢様に受講していただいています。あのこの度お嬢様がご婚約されたとお伺いしましたので、お祝いにと思い……。あのお嬢様は御在宅でしょうか」
「お嬢様にわざわざご丁寧にありがとうございます。お嬢様はいらっしゃいますよ。でもお嬢様のご婚約は、まだ内密だとお聞きしているのですが……」
「お嬢様にお会いしたいのですが、取り次いでいただけませんか」
「失礼しました。こちらへどうぞ」
メイドは川本修次を豪邸の中に案内をし、応接室にて待つように促しました。そしてしばらくすると、お嬢様が応接室に入ってきました。
「先生、わざわざ私の婚約の祝いに来てくださるなんて、ありがとうございます。」
そのすぐあとでメイドがお茶と和菓子を持ってきて、テーブルに置いてすぐに部屋を出て行きました。
「お嬢様、実はお祝いだけではなくて、少しお聞きしたいこともあって来ました。こんな時にこんな話は、迷惑かもしれませんが、先日美鈴さんが亡くなられたのはご存じですよね。美鈴さんが亡くなっていたのが私の後輩の松田響輝さんの控室だったため、彼が容疑者になっています。でも彼は人など殺せる人ではありません。」
「そうなんですか。美鈴さんも松田響輝さんも大変お気の毒です。先生が今日ここに来られたわけは理解しました。私の婚約者が美鈴さんと交際されていたと思っていらっしゃるんですね。でもそれは誤解ですよ。私の婚約者は美鈴さんとは男女の関係は、一切ないと言っています。番宣でマスコミにそういうことを、事務所が流したことがあっただけだと言っています。」
「その言葉を信じていらっしゃるのですね。大変に言いにくいのですが……。彼は自分で警察に美鈴さんとの交際を認めていますよ。しかも最近お嬢様との婚約で美鈴さんとの仲が険悪になっていることも否定され、美鈴さん以外の人とは交際も婚約も否定していますよ。」
「そんなバカなことはないわ。彼がそんなこと言うなんて……。嘘よ、嘘よ。」
「事実です。神に誓って真実です」
お嬢様はハンカチを取り出して、顔を伏せて泣いていました。