あの俳優が逮捕されてから三日後、由美子の家に一人の訪問者がありました。父親の康雄と母親の麻沙子も、その日は家に居た。その訪問者は玄関前で、対応に出た母親に名刺を出して用件を話した。
「私は服部猛と言います。この度アイドルタレントの美鈴さんの殺人事件で、容疑者になった武中雄太氏の国選弁護を引き受けました。国選とはいえ私は武中雄太氏が主張している、美鈴さんを殺していないという言葉を信じています。そのため裁判ではそれを証明したいと思います。少しお話を聞かせていただけませんか。」
訪問者はそう言った。武中雄太氏とはもちろん美鈴の恋人で、彼女を殺したと逮捕された、あの俳優である。
由美子の母親は戸惑いながら、奥にいる由美子や父親の方を見た。父親は玄関に出てきて、服部弁護士を見ると、家の中に入るように促しました。そして彼を奥の応接室に招いた。そして由美子の母親は少しして四人分のお茶を持って入ってきました。由美子もすぐに入ってソファーに座りました。
「先ほど玄関でお話されていたのを、少し聞こえてきたのですが、美鈴さんの事件で武中雄太氏を国選で弁護されるんですね。私の娘の由美子は美鈴さんに殺されかけた松田響輝さんの友達なのです。だから、美鈴さんを殺したことだけではなく、松田響輝さんが襲われた理由もはっきりさせたいのです。」
服部弁護士は一瞬ドキッとしたような表情をした。しかしすぐ気を取り直したように、淡々と話し始めた。
「武中雄太氏は当初、事件があった時刻別荘に居たというアリバイを主張したが、警察によって崩されました。彼も運がないですね。美鈴さんが殺されたホテルの近くで、彼の運転する車が前を走っていた一般人の車に搭載されたドライブレコーダーに映されていた。しかも彼は有名人なので事件のことを知った、その一般人が警察に送って来たというわけです。」
服部弁護士はそこまで話して、出されたお茶を一口飲んだ。
「それではやはり武中雄太氏が美鈴さんを殺したことに間違いはないのじゃないですか。」
由美子の父親は服部弁護士が、武中雄太が美鈴さんを殺していないと信じる理由が腑に落ちなかった。もちろん由美子や由美子の母親も同様だった。
「しかし、彼は美鈴さんを殺していないと言っている。しかも殺す動機はないと言っている。確かに彼は松田響輝さんを美鈴さんと一緒に殺して、美鈴さんが受け取る保険金を分けてもらうはずだった。だから別荘にいるというアリバイを作って、あのホテルに向かったようだ。」
由美子も由美子の両親もびっくりして言葉を失くした。