気まずい空気に耐えられずに、立石和行は口を開いた。
「社長、僕がいると話しにくいですね。僕は和葉さんの義理の弟にあたるのですよ。和葉さんの妹は僕の妻なのでね……。すみません。僕は和葉さんが亡くなったことを、会社に報告し今後のことを話し合わないといけないので、会社に行ってもいいですか」
「そうですか。わかりました。では後ほど会社の方にお伺いします。和葉さんのことは会社の他の方にも、お話聞かせていただきたいのでよろしくお願いします」
立石和行は静かに応接室を出ていた。その後しばらく間をおいて、山川刑事は山科社長の方に顔を向けて、話すように無言で促した。
「うちの夕月はあの和葉さんの魅力に目が眩んで、彼女の本質が見えていないのよ。結婚の時も彼女からの押しに負けて、今は流行らないあんな豪華な結婚式に、豪華客船での一ヶ月もの新婚旅行、全て彼女の言いなりになっていたのよ」
「かなり夕月和葉さんは浪費家なんですか」
谷山刑事は聞き返した。
「浪費家なんてものではないわ。しかも和葉さんだけじゃないのよ。彼女の妹さんの立石双葉さんはメンタルクリニックを経営しているのだけど、経営状況は火の車で毎月のように夕月に援助をさせていたのよ。あの姉妹は揃って金銭感覚がどうかしているのよ」
山科社長は眉間に皺を寄せて、とても悔しそうに話しを続けた。
「お金のことだけじゃないのよ。結婚前から彼女は男性関係も派手だったのよ。だから私は結婚どころか、交際すら反対したのよ。だけど夕月は彼女に惚れ込んでいたから、私の話に耳を傾けようとはしないし、それどころか、結婚を反対するなら事務所を辞めるとまで言い出したのよ。だから仕方なく……」