山村社長はそこまで話すと、とても沈痛な表情になって、持っていたハンドバッグから、白いハンカチを出して涙を拭いて、話しを続けました。

「こんなことになる前に一日でも早く、二人を離婚させることができていたのなら……。今日も朝から夕月と和葉さんのことで、ながい時間かけて話し合っていたのですが、どんなに言っても聞き入れてもらえず、さっき私がとめるのも聞かずに、帰ってしまったのですよ」

 そこまで話を聞いていた山川刑事は、手で話を止めて確認するように聞いた。

「夕月さんは今日は朝から事務所にいらっしゃったのですね。それは何時から何時の話でしょうか。できるだけ正確にお願いします」

「彼が朝来たのは九時過ぎだったわ。九時に約束していたのですが、着いたのは九時五分ごろだったわ。そして私たちは話し合いを始めて、夕方四時過ぎに怒って帰りましたわ」

「それは本当ですか」

「はい。間違いないです」

「ずいぶん長く話し合われていたのですね。夕月さんご夫婦のお話だけだったのですか。それから社長さんと夕月さん二人きりだったのですか」

「最初は今後の仕事のことや、スケジュールなどの話をしていましたよ。もちろんその時は穏やかに、マネージャーも一緒に三人で話していました。私が和葉さんとの離婚の話を切り出したのは昼食後でした。そこからは険悪な話し合いになりました。結局彼はどんなに言っても、明らかな証拠を見せても納得せず、怒って帰りました」

「社長さんその証拠とは何でしょう」

「それはこれですよ」

山村社長はハンドバッグから封筒を取り出し、テーブルの上に置きました。

投稿者

ほたる

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