事務員の川合の言葉を聞いて、若い谷山刑事が川合の緊張をほぐすように、ゆっくりと優しく話しだした。
「川合さんでしたね。夕月さんは病院に行っています。マネージャーの神谷さんがついていますので、心配はないと思います。あの僕たちは今日のことをお聞きしたいだけなんです。今日は朝から夕月さんもここに出勤されていたのですね。社長さんの話では和葉さんとのことを、話し合われたそうですね。そのことを聞きたいだけです」
「今日のことですか。話し合われた内容ですか?私はあちらの部屋に居たので、詳しいことはわかりませんが、時々……」
そこまで言って川合は社長の顔を見て、話していいのかどうか考えているようだった。
「川合さん何も隠すことはないのよ。私たちもいつになく感情的になっていたので、恥ずかしいですが、大声を上げて言い合いになったこともあったわね。それが聞こえていたのね」
「はい社長。時々社長の怒鳴り声も、夕月さんの怒鳴り声も聞こえていました」
谷山刑事は川合さんに重ねて尋ねた。
「夕月さんは何時くらいから何時くらいまで事務所に居たのですか」
「朝9時ごろから夕方4時ごろまでだったと思います」
「そうですか。ずっとこの事務所に夕月さんは居たのですか。昼食とか食べには出なかったのですか。失礼ですが、山村社長さんもずっとこの事務所に行ったのですか」
「刑事さんは私のことを疑っているのですか。確かに動機があると思われているみたいですね。私は和葉さんが大嫌いでした。夕月とも別れさせようと何度もしました。でも殺していません。私と夕月は時間も忘れて話していたので、川合さんが気を使って出前を頼んでくれたので、ここで少し休戦して食べました」
二人の刑事は山村社長の言葉に頷いた。
「川合さん、マネージャーの神谷さんも事務所に居たのですか」
「はい居ました。社長と夕月さんがあまりにも感情的になったら、止めに入っていました。だからこの事務所の中を、そわそわしながら下のコンビニにジュースを買いに行って、応接室に持っていたり、何回かため息もついていましたよ」