夕月和葉が殺されてから、一ヶ月が過ぎた。夕月光希の殺人容疑は、アリバイもあり容疑はすっかりはれていた。しかし彼は今も休業したまま仕事復帰はしていなかった。毎日自宅でぼんやりとしたままだった。
夕月和葉の妹の立石双葉は、義兄の光希が心配だと毎日のように、彼の家に様子を見に来ていた。山村社長はそのことをとても嫌がっていた。しかし光希は彼女を快く招いて、和葉の思い出話をしていた。
山村社長はその日一人の女性を連れて、夕月光希の家にやって来た。その時には立石双葉も彼の家に来ていた。
「社長今日はいったい何の用ですか。仕事の復帰はもう少し待っていただけませんか。それにそちらの女性はどちら様ですか」
「彼女はこの若さで大学の教授なのよ。しかも精神科でグリーフケアについての専門家よ。あなたには彼女のような専門家のケアが必要だと思うの。だから、彼女に定期的な訪問診療をしていただこうと思って、一緒に来ていただいたのよ」
そんな話をしていると奥の台所から、立石双葉はお茶の用意を持って入って来た。
「光希お義兄さまには私がついていますので、そんな心配はいらないと思います」
立石双葉の言葉に山村社長は不快そうに眉間に皺を寄せたが、彼女を無視して夕月光希の方に顔を向けて話しを続けた。
「地域のメンタルクリニックの医者に、カウンセリングなど受けてもあなたは少しも良くならないじゃない。だから立石さんには帰っていただくようにしてください。それにあなたの奥さん気取りでこんな真似もさせないでくださいね」
「社長そんな言い方は……」
「これでも気を使っているわ。立石さんは今もあなたに、金銭的な支援をさせているってこと私も知っているのよ。立石さんがあなたに会うたびに、和葉さんの思い出話をしているみたいだけど、もう和葉さんのことも忘れなきゃいけないのよ」
立石双葉はその言葉を聞くと慌てて帰っていった。