夕月光希は双葉の提案に少し戸惑ったように考え込んだが、一度頷いてから口を開いた。
「そうだね。なんといっても和葉は双葉さんの姉だものね。いろいろ思い出もあるだろし……。わたし一人ではきっちりとした返事はできないが、山村社長に話してみるよ。支払いのこともできるだけ何とかしてもらえるように言うよ」
「ありがとうございます。お義兄さん和葉姉さんが生きていたときから、ずっと変わらず私たちのことも含めて考えていただいて、どんなに感謝してもしきれません。どうか今後も私たちと変わらずお付き合いしてくださいね」
「もちろんだよ。君は和葉のたった一人の肉親で、かけがえのない妹さんなんだ。なら僕にとってもかけがえのない存在だよ」
「だが、今の僕が困っている君たちにしてあげられるのはこれだけだよ」
夕月光希はカバンの中から封筒を取り出した。双葉はその封筒の中をそっと見てみると、札束が入っていた。
「その中には五百万円入っているよ。今私が自由にできるのはそれだけだよ。和葉は保険嫌いで入っていなかったからね。まあ僕も勧めなかったがね。僕は和葉が側にいてくれるだけで良かったからね」
夕月光希はそう言うと、目に涙をためて震えていた。
「どうしてこんなことになってしまったのだろう……」
双葉も唇を噛みしめながら泣いていた。
「お義兄さん和葉姉さんを殺した犯人に心当たりはないのですか。例えば……例えば山村社長とか……」
「双葉さんなんてことを考えるのですか。確かに山村社長は僕たちの結婚には強く反対してましたよ。だからって和葉を殺したりしませんよ。それにあの日は一日中私と事務所に居たのですよ。そんなことあるはずがありません」