双葉は確かに山村社長にはアリバイがあり、殺すことは不可能だろうと思った。しかし誰が妹を殺したのか。夕月光希と社長は事務所に居た。もちろん二人だけではなく、事務所の何人もが一緒に居たと証言している。しかしあの二人の他に思い当たる人はいない。
双葉が眉間に皺をよせてそんなことを考えていると、夕月光希が不意に質問して来た。
「双葉さん変なことを聞くようだけど、立石さんとの仲はうまくいっているの」
「えっ!お義兄さんなんでそんなこと聞くの。うまく言っているに決まっているじゃないの」
「だったら良いのだよ。ごめんね変なことを聞いて、忘れてください」
「誰かがお義兄さんに何か言っていたの。もしそうなら教えてください」
「実は山村社長が双葉さんと知らない男性が、親しそうにしているところを見たっていていたから……」
「それってもしかしたら先日ホテルのラウンジで一緒に居た人のことかしら、あの男性は以前妹の和葉が共演した俳優よ。まだまだ駆け出しだから、山村社長は知らなかったのかもしれないけど。しかし社長は私達姉妹のことはとことん嫌っているみたいね。でもひどいわ。親しそうにしてたって言いふらすなんて」
それを聞いて夕月光希が申し訳なさそうに手を合わせて謝った。
「申し訳ない」
「お義兄さんのせいではないわ。謝らないで」
「たぶん山村社長は僕がいつまでも和葉のことで、落ち込んでいて、なかなか仕事に復帰しないので、なお一層イライラしていろいろなところに当たり散らしているみたいだよ。事務所のスタッフにも不機嫌な態度を取っているようだし、全て僕が悪いのだけど、どうしてもまだ仕事をする気にはならないんだ」
「わかるわお義兄さん。あんなことがあったのだから仕方ないのよ。だから気にしないで……。今日は本当にありがとうございました。私これで帰ります」
そう言って双葉は帰っていった。