「きゃー!誰か、誰か来て、人が死んでる」
早朝六時ゴミ出しに来た一人の主婦が、近隣中聞こえるような大きな悲鳴を上げた。近くの家から数人の人が何事かと集まって来た。ゴミ置き場には黒いビニール袋から血まみれの男性の顔がのぞいていた。駆けつけた人々もその異様な光景に一瞬固まってしまった。
「お、おい警察、警察を呼ぶんだ」
一人の男性がそう叫ぶと、近くに居た人が何人か自分のスマートフォンで警察に電話をかけた。
数分後パトカーのサイレンの音がして、警官や刑事が多くやって来た。その場に居た人たちはその刑事たちに一人ずつ事情を聞かれることになったが、誰もそこで死んでいる人が誰か、なぜそうなったのかを知る人はいなかった。みんな普段はとても静かで平和な町なのでドラマか何かを見ているようだと話していた。
そのビニール袋の中の男性は下着姿で、所持品はなくどこの誰かもわからなかった。しかもからだ中なま傷だらけで、ながい時間拷問されて、時間をかけて苦しみ抜いて殺されたようだった。さすがの刑事たちも何の手掛かりもその日は掴めなかった。
その残酷な殺し方から、怨恨であることは間違いないと警察は考えたが、身元すら分からず、闇雲に事件現場近くの聞き込みを重ねていた。
その町は高級住宅街で、弁護士や医者、大学教授、政治家、大企業の経営者などが多く住んでいたが、その事件以降、町中の人がその事件への警戒が強くなり、一人で出歩く人が少なくなった。また子供たちは登下校時必ず保護者は付き添うようになった。
その町に住む人たちは自他ともに認める上流階級の人ばかりで、政財界に顔が聞く人が多く、事件の早期解決を毎日のように警察に訴えていた。
刑事たちは殺されていた男性の身元を懸命に調べていたが、発見された時点ですでに生きていた姿が想像できないほど変わり果てていた為困難を極めた。