その2日後の朝、杏介が大学に行くと、校門を入ってすぐに後ろから走ってきた女性が声をかけてきました。振り向くと経済学部準教授の進藤珠代さんでした。彼女はこの大学を首席で卒業し、33歳の若さで準教授にのぼりつめた才女です。杏介は小説を執筆する時には、よく経済的なことのアドバイスを受けることもあるので、いつも親しく話しています。時には一緒に食事をしに行ったりもしています。とはいっても決して友人以上の関係ではありません。彼女はきりりとした端正な顔立ちに、ショートヘアーがよく似合う、スポーティーなカッコイイ人です。
「おはようございます。高岡先生。」
「あ、おはようございます進藤先生。今日も元気ですね。」
「お互いにね。ところで最近高岡先生は石川先生と親しくされているとか、お聞きしましたが・・・・。」
「いや親しくだなんて、ただ研究論文を手伝ってほしいと言われたので、少しでもお役に立てればと思い、アドバイスのようなことをしているだけです。」
「そうですか、研究論文ですか。だったらいいのですが・・・・・。」
「何か問題でもあるのですか。」
「いいえ、仕事上のお付き合いなら何も問題はありません。」
「はあ」
二人はそんな話をしながら、構内へと入っていきました。そしてそれぞれの研究室に向かうため、左右に別れ際に、進藤准教授は言いました。
「それでは明日、先日の小説の資料持ってきますね。」
「ありがとうございます。いつも助かります。進藤先生の資料はいつも的確ですごくわかりやすいですから。では明日。」