杏介は写真をじっと見ている。すると盛男は言いました。
「これは5年前の写真ですが、女性はもちろん石川千賀子さんですよ。隣の男性は中村茂という。この頃は25歳独身で不動産経営者の息子さんで、まもなく父親のあとを継いで、社長になろうかという頃でした。この写真を撮られて一月後に亡くなっています。しかも不思議なことに自殺か殺人かもわからないのです。それと中村さんが持っていたと思われる資産が、すべて無くなっていたのです。推定3億円くらいと思われます。」
「あの進藤さんはもしかして、中村さんの死亡に石川先生が関わっているとでも思っているのですか。こんなたった一枚の写真だけで、そんな言い方は石川先生に失礼でしょう。」
杏介はムッとしてそう言いました。
「写真一枚で言っているのではないですよ。当時、石川先生は私達が勤める大学の大学院生でした。それは高岡先生もご存じですよね。かなり熱心な生徒さんだったし、その上あのように美しい方ですから、人の目も引きます。その石川先生が中村さんと交際していることどころか、知り合いであることも、大学内外の知人友人は誰も知らなかったのです。しかし中村さんの両親は石川先生が何度も自宅に遊びに来たり、中村さんからは将来結婚を考えているようなことも、二人は話していたようだと言っています。なぜ石川先生は自分の友人知人の誰にも話していなかったのか、それと中村さんの死後、警察に関係を聞かれたときに、交際を否定しています。たまたま友人で写真を撮っただけだと、あくまで友人だと言っていたようです。」
珠代はそう言いました。杏介はなるほど確かに疑わしい話だと思いました。そして盛男は言いました。
「高岡先生には言いにくいのですが、石川先生の身近で不審な死を遂げたのは中村さんだけではないのですよ。3年前には30歳の銀行員が酔って埠頭から落ちるという不審死している、銀行員は両親を早くに失くして財産を相続していました。推定6千万円程とのことですが、やはりそのお金は見つかりませんでした。そしてその時も石川先生は銀行員のことを知らないと言っていたようですが、銀行の同僚が二人でいるところを何度か見ているようです。2年前には・・・・。」
「もう結構です。わかりました。それでお二人は僕にどうしてそんな話をするのですか。」
杏介の言葉に珠代と盛男は顔を見合わせて、意地悪そうにニヤッと珠代は言いました。
「最近ずいぶんと親しくしているように感じるのだけど・・・・。」
「そうですか。そうですよね。」
杏介はあっさりそう言いました。