珠代と盛男は杏介があっさりと納得したことには、少し驚いたが、これで協力してもらえるのでよかったと思いました。杏介の方は自分でも納得したことにはびっくりしましたが、以前に比べて千賀子に関して感じていた魅力は、今は何とも思っていませんでした。

「それで僕はどうしたらいいのですか。」

「別に何ってことはないですよ。今までどおり仲良くしてほしいだけです。」

盛男はそう言いました。そしてなぜ盛男がこんなことを頼むのかという説明をしました。弁護士の盛男は、5年前に亡くなった中村茂の両親が、彼の死の真相が知りたいと依頼され、調べていたがなかなか真相には近づくことはできなかった。両親はその写真一枚しかもっていなかったので、とりあえず千賀子に事情を聞いては見たが、うまく言いくるめられたようです。両親は今もあきらめきれずに、真相解明を待っています。そして千賀子を調べているうちに、3年前と2年前の不審死も起こり、千賀子への疑惑は深まっていったのでした。そんな時に妹の珠代から千賀子が近づく新しい男性・杏介の話を聞き、協力をお願いしようということになったとのことです。

「ところでこれから千賀子さんとお会いする、約束などはあるのですか。」

盛男がそう聞きました。

「個人的な約束はないですが、来週の土曜日から水曜日まで、学会の研究会に石川先生と一緒に参加するように、教授から言われています。」

「川崎教授からですか・・・。たしか石川先生と高岡先生が親しくなったきっかけは、その研究会での論文でしたよね。ツルゲーネフでしたっけ、川崎教授は文学部の純文学を専攻していますが、海外の文学ではなく、日本文学が主なものだったと思いますよ。石川先生も同様ですよ。だから川崎教授と石川先生はいつもよく、共同で谷崎潤一郎や堀辰雄などの論文を作成して発表していますし、教授の研究室で遅くまで二人でいるところを、よく見かけますけど、なぜツルゲーネフなど専攻違いな研究の論文を、石川先生一人に任せたのかな。しかも研究会に高岡先生と参加するようにって、なんかおかしくないのかな。」

そう言って珠代が考え込んでいると、盛男は言いました。

「そんなことより、そのホテルに僕も行きますね。いいでしょう。川崎教授と石川先生には内緒にしてくださいね。」

「わかりました。これがホテルと研究会の概要です。」

盛男はそれをスマートフォンで写メを取りました。

投稿者

ほたる

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