土曜日の朝6時に起きた杏介は、研究会への用意をして新幹線中で待ち合せることになっていたので、朝食を食べた後駅に向かいました。新幹線の中にはもうすでに千賀子が座席に座っていました。そして杏介を見つけた千賀子は笑顔で手を振っていました。杏介が座席につくと、斜め前の座席に盛男が座っていました。千賀子は盛男には5年前に合ったきりなので、気づかないだろうと思ったが、髪型や服装を変えとても弁護士には見えません。しかも、サングラスもかけていました。
「高岡先生来ていただいてありがとうございます。本当に先生と一緒に行けてうれしいです。研究会は一日だけなので、終わってから少し観光しませんか。人気のスポットとか美味しいお店とか調べてきたんですよ。」
「ええ、そうですね。」
「あまり楽しくないみたいですね。」
「いえそんなことはないですよ。ただ論文の発表があるので、少し緊張してるんですよ。」
「そうですね。論文のことが重要ですね。ごめんなさいね。高岡先生と一緒にいるとついついワクワクしてしまって、不謹慎ですよね。ではこの話は研究会が終わってからにしましょうね。」
「申し訳ないですが、仕上げないといけない仕事がありまして、ここで少し作業したいので、よろしいでしょうか。」
杏介はそう言うとカバンからパソコンを出して、打ち込み始めました。特に急ぐ仕事ではないのですが、千賀子と二人でいるのは、自分自身が気まずく何を話したらいいのか分からず、パソコンを打ち込むことで、千賀子と話さなくてもよいようにと思っていました。千賀子も小説を出して読み始めました。一時間半ほどその状態でいると、新幹線は目的の駅に着きました。二人はタクシーでホテルに向かいました。