川崎教授が杏介の部屋に入ってきました。そしてテーブルの前に座ると話し始めました。
「大変なことになったね。石川先生は命には別条はないらしいが、しかし誰が一体こんなことをしたのだろうね。」
「そうですね。早く良くなってくれればいいのですが・・・・・。あのお話というのは何でしょう。」
「石川先生と君にこの研究会の発表が終わった後に話そうと思っていたのだが、石川先生はあの状態なので、先に君に話しておこうと思ってね。文学部の立石教授が今年度末で退職されることは、聞いていると思うが、昨今少子化で学生の数がわが校も減ってきている。しかしわが校は昔からの伝統で、学部の中でより専門に特化した学問を身に付けていただこうとしている。たとえば文学部は立石教授が担当されている海外の純文学や私が担当している日本の純文学、そのほかに歴史文学、古典文学、SFやミステリー、ノンフィクションと6つに分かれている。それはそれで学問としては、より深く追求するという意味では大切なことであるし、今まではそれがひとつの売りでもあった。しかしさっきも言ったように生徒数が減っている中で、細かく分ければそれだけ多くの経費もかかる。しかも他の学部も同様に細かく分かれているので、莫大な金額になるので、この大学の理事会で、今までの方針を転換してはどうかという意見が多く出たようだ。そこで来年度から試験的に文学部の統合を行うということになったのだよ。それでとりあえず、6つあるものを3つにしようということになったのだよ。」
「そうなんですか、それでどのようになるのですか。」
「純文学、歴史文学、ミステリー文学になる。歴史文学の中に古典文学が入り、ミステリー文学にSFが入る。ノンフィクションはなくなることになるね。そこで私達も海外の文学にも触れておかないとと思い、今回この研究会に参加してもらったのだよ。」
「では大学も大きな転換期に入ったのですね。」
「そうだね。これからは私も純文学だけでなくいろいろなものを学ばないといけなくなるようだ。今回は理事会から職員の削減も今後視野に入れると言っているらしい。」
「厳しい時代になりましたね。」
「ほんとうに・・・・。すまなかったね。こんなバタバタしているときに押しかけてしまって、でも少しでも早めにお伝えして、心積もりしてもらおうと思ってね。それでは失礼するよ。」
川崎教授はそう言って部屋を出ていきました。