メイドの松波が部屋を出ると今度は古川刑事が静かに話し始めました。
「いやあなたを責めるつもりはないのですが、それに相手に迷惑になるのならその事情をお話しいただければ、事件に関係なければ公にはしませんよ。私達は不自然なことがあれば、そこから細かく調べているのです。」
「あの、うちの息子は何か隠し事をしているように聞こえるのですが、それはどういうことですか。刑事さんなんで杏介が隠し事があると、思われるのですか。その根拠を聞かせてください。私達も杏介からは一応状況は聞いているのですけど・・・・。」
杏介は下を向いて話すのをためらっていたので、父親の義隆は刑事にそう問いかけて、時間を稼いで、杏介の気持ちの整理ができればと考えたようです。
「先ほども言いましたが、杏介さんと進藤盛男さんのホテルの部屋でルームサービスを頼んで夕食を取られました。それはホテルのスタッフの証言でもわかっています。しかしそのスタッフは不思議なことを言いました。食事の量もナイフやフォーク、お皿なども3人分頼まれたと言っているのです。」
古川刑事はそう言って杏介の方を見ました。
「3人分ですか。なるほど」
父親の義隆はそっと息子を見ました。杏介は黙って下を向いていました。
「それに研修会が行われている間も、進藤盛男さんの部屋に飲み物などを2人分届けているのです。まあその部屋はシングルなので、同じホテルの違う部屋に泊まっている人が、その部屋に来ていたようですね。私達はホテルの宿泊客をすべて把握しているので、誰であるかの見当はつくのですが・・・。あなたの口からお聞きしたいのですが・・・・。」
「杏介すべて正直に話すしかないでしょう。刑事さんも事件に関係ないのなら、他言しないと言ってくれているのだから」
父親にそう言われた杏介は覚悟を決めたように、顔を上げて大きく息を吸って吐きました。