川崎教授は少しためらいながら話を続けました。
「あのそのために私達の心のわだかまりもお互いに整理しないといけないと思っていました。でも石川先生も高岡先生も一緒にお話する場をつくれて良かったと思います。僕はお二人を中心に文学部をより効率的に改革を行うようにと、学長から命じられているので進めていかないといけないんです。」
川崎教授はそう言うとカバンから一枚の紙きれを取り出しました。そこには現在の大学の人事が書かれていました。来年度はまず文学部の統合が始まると言いました。そのため文学部の多くの教職員のクビを切ることになるだろうとも言いました。
「高岡先生には少しお話ししましたが、これからリストラもしないといけないので、しかもそれを僕が選定しないといけないとのことです、大変なことになりました。」
「そうですね。それは大変ですね。もしかしたら僕に自主退職を勧めに来られたのですか。」
「まさか、君はミステリー作家として有名な方ですし、我が文学部の広告ともいうべき存在じゃないか、辞めるなんて言われたら、僕の立場がなくなりますよ。君には今の講師ではなく准教授に昇進していただきたいと、学長からも言われています。是非お受けください。」
「僕がですか。僕みたいな中途半端な人間には助教授は荷が重いですよ。」
「そんなことはないわ。高岡先生は中途半端な人なんかじゃないわ。私は高岡先生と一緒にツルゲーネフの研究論文を作成させていただきました。あの時はっきりとわかったんです。先生は博学な上思慮深く理知的だということです。あなたに准教授の昇進をしていただきたいのです。」
「それは石川先生のかいかぶりですよ。僕はそんな器ではないです。」
「まあまあ結論は今すぐでなくてもいいですよ。まだ話は始まったばかりですから。」
その話が終わると二人は高岡先生の研究室を出ていきました。