杏介の研究室を出た二人は、川崎教授の研究室に行って、二人で話し始めました。
「高岡先生は助教授の話をお引き受けくださるでしょうか。あまり乗り気ではないような様子でしたが・・・。」
石川千賀子の不安そうな言葉を聞きながら、川崎教授は黙ったままコーヒーカップを2つ取り出してコーヒーメーカーからコーヒーを注ぎ、テーブルに持って行って彼女の前に座りました。少しの間考え込んでいましたが、静かに口を開きました。
「しかたないさ、短時間にいろいろあって、彼も混乱しているだろうし、また時間をおいてゆっくり話すこととしよう。そんなことより、進藤盛男と珠代のことだ。過去の男のことは何とかごまかせたが、そのために刑事までも今は動いている。はじめから計画の立て直しだ。君が進藤盛男の動きに気づかなかったとは、君らしくないじゃないか。」
「そんなことを言われても中村家の家族が今も私を疑っていることは知っていたけど、まさかあの時の弁護士が今も私をしつこく探っているとは思ってもみなかったのよ。しかもその弁護士が進藤助教授の兄だったなんて・・・。でもよく気が付きましたね。危ないところでしたわ。」
「君が以前話していたよね。高岡先生の態度が変わったと、それでもしかすると誰かが何か君の噂を耳に入れたのかもと思ったので、思い切ってこちらから仕掛けたのさ。あの先生はどこまで行ってもお坊ちゃんだ。口に出さなくても顔には出るからね。」
「だから私の過去に噂があると高岡先生に話したのね。ひどい人ね。全部あなたが考えたことじゃないの。」
石川千賀子は口をとがらせて怒ったふりをして見せた。
「でも君を襲うことで、過去の疑惑も刑事に払拭させたじゃないか。念のため私が作った慈善事業に資産を移しておいて良かっただろう。最初に疑った分高岡先生の中で君に対する不信感が無くなり、むしろ進藤盛男、珠代への疑念が残る。」
「本当にそうなったのかしら。」
「まあしばらくは動かず時を待とう。とりあえず僕は講義に行くから、君も仕事に戻りなさい。」
川崎教授はそう言うと講義の準備をして二人は研究室を出ていきました。