食堂で食事を済ませた後、滝川満彦が紅茶を運んできて皆に配り終わると、ゆっくりと話し始めました。
「ここに中村君がいないのは寂しい限りですね。とてもいい奴だったよな。優しくてよく気がついて、彼がいるだけでその場が和むあったかい人だったね。それにいつも前向きでとても自殺するような人ではなかったんだ。だから彼の死の真相はどうしても明らかにしてほしいと思っているんだ。なあ進藤。」
「ああそうだよ。だからこの5年間彼の死の真相を調べていたんだ。その中で川崎教授についても少しあやしいところがあるんだよ。教授はもうすぐ再婚するらしいしな。」
そう進藤盛男が話しました。それを聞いた杏介は川崎教授が再婚することを知らなかったので、聞き返しました。
「川崎教授再婚されるんですか。でもまあ教授も奥さんを5年前に亡くされているので、特に不思議ではないですが・・・。」
「川崎教授再婚じゃなく、再々婚ですよ。正式な結婚は今度で3回目です。最初の奥さんは川崎教授が24歳のときで、相手は35歳の不動産会社を経営する女性社長だったようです。結婚して7年後交通事故で亡くなっています。しかもその時に一億円近い遺産と二億円の死亡保険金を受け取っています。」
進藤珠代がそう言うと進藤盛男が続けて言いました。
「川崎教授はその後 3年後、当時の文学部の教授が定年するので、教授選があった時に有力政治家のご令嬢がぞっこんで結婚することで、その方の父親のバックアップもあり、何人かのライバルを押しのけて、最年少の教授に出世した方です。その方も5年前心臓麻痺で急死しています。まあ石川先生に負けないくらい不吉な感じがしますよね。」
「そうですか。単に家族の縁の薄い方のように思いますが、結婚生活もそれなりに円満に何年も過ごされていますよね。不吉と言ってあげたら気の毒ですよ。」
そう杏介は進藤兄妹に言いました。それを聞いていた弓月道子は言いました。
「川崎教授は充分あやしいですよ。二人目の奥さんと結婚した時は有力政治家の父親の威光が川崎教授にかなりあり、大学の教授陣の中でもかなり認められていました。しかし5年ほど前に父親は汚職に疑惑で失脚しましたよね。そして確か自殺されていましたよね。その後すぐ奥さんも亡くなりましたよね。」
「あの、弓月さんずいぶんうちの大学の事情に詳しいのですね。」
杏介はそう言いました。
「当然ですよ。亡くなった川崎教授の二番目の奥さんは私達の会社お得意さんです。政治家のご令嬢とは思えないほど気さくでご親切な方でしたよ。私たち夫婦はあの方とよく食事なども一緒にさせていただいたこともあります。よく川崎教授のことも聞かされていました。とても優しい方ですと・・・、でも自分が愛されてると感じることは一度もないと言っていました。」
弓月和広は続けて話しました。
「特に彼女の父親が失脚してからは、手のひらを返したように夫婦の会話もなかったようです。自宅にもなかなか帰ってこなかったようですね。」