杏介はこの別荘にいる進藤兄妹の友人達が、大学の事情にはとても詳しくみんなで調べているのだということを感じていました。しかし川崎教授と石川先生にどんな関係があるのかは、杏介は今一つ理解できませんでした。しかしここにいる人達はもっといろいろ知っているようでした。

「あのみなさんはなぜそこまで川崎教授と石川先生のことを調べているのですか。僕は川崎先生と石川先生とは、同じ文学部で純文学の教授と講師とという関係以上とは思いませんが、それに川崎教授は以前僕に石川先生のことを忠告されていましたので、石川先生のことはあまり良く思っていないようです。」

杏介の言葉を聞いて、珠代はとても不愉快な顔をしましたが、それには杏介は気付きませんでしたが、それに気づいた盛男は静かに話し始めました。

「高岡先生は御存じないでしょうが、石川先生の今のご両親は血が繋がっていないのです。彼女の本当の両親が誰なのかわからないのです。施設で育ったそうです。捨て子だったそうですよ。でも石川先生は小さい頃から可愛らしくて賢く、小学校入学前に子供のいない今の石川家に引き取られたそうです。」

「はあ。しかし・・・。それと川崎教授はどういう関係があるのですか。」

「あまり知られていないのですが、川崎先生が高校生のときから交際していた女性がいたのです。しかし最初に結婚された方とは違う女性です。その当時の教授の学友たちの話では、教授の高校の1年後輩の女性らしいです。教授の大学1年生の時その女性が妊娠したという噂がありました。」

「その女性の方は出産されたのですか。もし出産されたのであれば、その女性はその後どうなったのですか。その子供のこともわかっているのですか。それになぜ川崎教授はその女性と結婚しなかたのでしょうか。」

杏介はそのように盛男達に立て続けに問いかけました。

「子供は生まれたということは確かなようです。その女性は出産後しばらくしてから、子供と共に行方不明になったと学友たちは川崎教授から聞いていたようです。その後どういう経緯かはわからないですが、手広く不動産会社を経営する実業家と出会い、あっという間に結婚したということです。

盛男はそこまで話すと、自分のポケットから1枚の古い写真を取り出し杏介に手渡しました。その写真には石川先生が写っていました。しかし服装や髪形や風景がかなり昔のように思えることに、違和感がありました。そしてよく見ると今から31年前の元旦の日付がありました。

「あのこの写真の人は石川先生の本当の母親ですね。」

「そうです。そして川崎教授の高校からの交際相手です。わかりますよね。僕の言っている意味が、石川先生は川崎教授の恋人や愛人ではなく、実の娘の可能性が高いのです。もちろん100%ではないですが、それに教授の方もそのことには気づいているはずです。」

盛男はそう言いました。

投稿者

ほたる

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