杏介は自宅に着いて、自分の部屋のベッドで少し横になって、いろいろなことを考えていました。この一年近くの間、石川先生とツルゲーネフの研究会で発表のために二人で論文を作成し、その頃自分は石川先生のことを好きになったのは事実だったのですが、進藤兄妹と関わるようになって、その恋心も消えて無くなりました。

 それと引き換えるように、進藤准教授のことが気にかかり始めました。杏介は恋とか愛とかって本当は何なんだろう。そんなことを考えていた時に、スマートフォンが鳴りました。進藤珠代からでした。杏介がでると珠代はとても慌てたように早口で話し始めました。

「高岡先生聞きましたか。川崎教授と石川先生がリストラされました。たぶん学長と川崎先生の婚約も破談になったようです。それに学長が緊急入院したみたいです。」

「ええ。本当ですか。なんでそうなったんですか。」

「私も詳しいことはまだわからないのですが、どうもうちの経済学部の学部長が関わっているみたいですよ。うちの学部の友人が言っていたのですが、今後はうちの学部長が学長になるようですよ。探偵使って川崎教授と石川先生の身辺調査して学長に報告したらしいってことですよ。」

「それじゃあ、学長はショックだったでしょうね。・・・だから体調崩して緊急入院されてのかもしれませんね。お気の毒に・・・。」

 杏介は珠代と話しながらずいぶんと急な展開だと思い、なにか裏があるのではないかと思い始めました。川崎教授と石川先生は今どうしているのかと思い始めました。余計なことかもしれないが、この事件の真実はまだ終わっていないような気がして、それを見定めなければいけないと思いました。

「進藤先生この事件の顛末はここで終わりですか。僕はまだ何か裏があるような気がしているのです。弁護士のお兄様はどう思われているのでしょうか。川崎教授と石川先生の疑惑はこのままうやむやになってしまうのでしょうか。」

「兄はそんなことはしないと言っています。どこまでも真実にむかって調べ続けると話してました。それより高岡先生は川崎教授から准教授にと言われていたのですね。たぶんそれは白紙になります。それにたぶんうちの学部長は川崎教授のお気に入りとみなされて、大変な処遇になりますよ。」

「僕のことはいいです。もしかしたら僕も大学続けられなくなるかも知れないので、かえって良かったと思っています。」

「そうなんですか。意外です・・・。詳しいことがわかったらまたお知らせします。高岡先生も何かわかったら知らせてください。それではまた連絡します。」

投稿者

ほたる

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です