盛男は手紙を手に取って読み始めました。読んでいくうちに盛男の顔色は変わっていきました。そして読み終わった手紙を、珠代に渡しました。その手紙を読んで珠代も驚いた顔をしていました。そして杏介に手紙を手渡しました。杏介は手紙を読んで、刑事達に聞きました。
「ここに書かれていることは事実ですか。信じられない。それになぜこの人が石川先生の交際相手を殺さなければいけなかったのですか。この方は川崎教授と石川先生に何のかかわりがあるのですか。」
「その手紙は最初の一枚だけですが、その続きにはその理由が書かれていました。今はそれをあなた達に言ってていいのかどうかということを考えたのですが、やはり気になりますよね。しかも進藤弁護士は最初に殺された中村茂さんとはご友人だったようですので、知る権利はありますよね。」
三人は刑事から手紙の続きを見せてもらいました。その内容というのは、川崎教授には学生時代に交際していた女性がいて、その女性とは結婚していないですが、女性との間に子供ができました。それが石川先生でした。その石川先生を生んだ女性も施設で育ち、実の親が誰なのかわからないまま育ったのでした。
犯人はその女性の実の母親です。つまり石川先生の祖母に当たります。その祖母は若い頃、1人の男性と恋に落ちて、石川先生の母親を妊娠しましたが、男性は出産前に交通事故で亡くなりました。そのため、祖母の両親は籍が入っていなかったので、生まれた子供をひっそりと施設に預けてしまいました。
祖母は伝統のある大学の学長の一人娘で、大学を継いでくれる後継者と結婚しなくてはいけなかったので、その後すぐ大学の講師で将来が有望な男性と結婚をさせました。相手の男性も祖母のことを以前から好意を持っていたし、未来は学長になれるということも魅力だったのでしょう。結婚後も円満なご夫婦だったようです。
祖母はそれでも自分の子供のことは気になり、時々お忍びで施設に様子を見に行っていたようです。その娘さんは大きくなるにつれ、祖母に似て美しい女性に成長していきました。そして月日が流れ、川崎教授と出会い恋に落ち、子供ができたのですが、二人ともお金がなく、生まれた子供を施設に預けるしかなかったのです。
表向きは二人は別れていたのですが、二人共子供のことは気にかけていたようで、時々二人で子どもの様子を見に行っていました。その子供が石川先生です。石川先生が18歳になった時、養父母のもとを出て一人暮らしを始めるための支援も川崎教授が行っています。二人は現在まで籍は入れていませんが、別れていません。
学長もそんな家族を陰ながら見守っていました。川崎教授がこの大学に来たのは偶然ですが、これがこの家族の人生を大きく変えることになったのです。学長は川崎先生を通じて、自分の子供や孫と交流をするようになりました。それだけならば幸せな家族になって良かったのですが、大きな問題が生じたのです。