珠代は刑事の話を聞いてもう一つ疑問がわきました。学長はなぜ自分の血のつながった愛する娘家族と、言っても過言ではない川崎教授と石川先生を大学から追い出して、経済学部長が学長になって大学を譲り渡したのか。川崎教授と石川先生が必死に守ってきた大学だったのに・・・。
「刑事さんあんなに大学の経営に必死になって尽くしていたのに、学長はなぜ川崎教授と石川先生を学校kから追い出したんでしょうか。私には理解できません。結局あの二人は何のために今まで頑張っていたのでしょうか。」
「それが学長の川崎教授と石川先生に対する最後の愛情なんですよ。学長は伝統ある大学の後継者として守っていかなくてはいけないという運命に縛られていました。その重みにずっと苦しみ続けていました。だから自分の余命がながくないと悟った時、二人を大学の呪縛から解き放したいと考えたみたいです。」
古川刑事はそう言いました。刑事の話を聞いても三人は今一つ納得できず、何かしっくりこないものがありました。確かに大学の経営は厳しかったのでしょう。しかし代々伝統ある有名大学を縁もゆかりもない、経済学部長に譲ってしまうって、しかも探偵を雇って川崎教授のスキャンダルを学長に告げ口するような姑息な人に・・・。
「それで刑事さん川崎教授と石川先生は今どうしているんでしょうか。詐欺罪や暴行罪の狂言の件で今も警察に留置されているのですか。」
珠代が質問しました。
「留置なんかしていませんよ。必要時に警察署に来ていただいて事情をお聞きしているだけですよ。」
古川刑事はそう言いました。
「川崎教授と石川先生は学長が男性達を殺したことは知っていたのですか。それに警察に告白の手紙を送っていたことは知っていたのですか。しかも大学から追い出されることになることも知っていたのですか。学長は何を考えていたのでしょうか。」
珠代は刑事にそう聞きながら、いろいろなことが頭をよぎっていきました。
「石川先生は知らなかっただろうが、川崎教授は薄々感づいていたみたいですね。口には出しませんでしたが、川崎教授は学長の気持ちがわかっていたのではないですか。手紙の話をしたら学長に感謝して泣いていました。肩の荷が下りてホッとしたようでした。今は石川先生の母親の下で家族水入らずで暮らしていると思いますよ。」
三人は刑事にすべてを聞いて、警察署を出で帰ることにしました。