次の日の朝、杏介が遅い朝食を食べていました。今日は講義がないため、一人で映画でも見に行こうかと思っていました。食堂に彼の母親が入ってきました。そして母親は彼の前に座って、メイドの松波に紅茶をお願いしました。そして母親は食事をしている杏介に話し始めました。

「杏介さんもう大学の講師の仕事はもう辞めた方がいいわ。今日にでも大学に行って辞めさせてもらいなさい。できれば早く今までの事件のことも忘れて欲しいの。あなたにはお父様の仕事を早く継いで欲しいのよ。お父様にはお見合いも来年度にって言ったらしいけど、私は一日でも早い方がいいと思うのよ。」

杏介は母親がいきなりそんな話をしたので、びっくりして食べるのをやめて、しばらく母親の顔を見ていました。今まで彼女は父親の意見にいつも従い、特に杏介が成人してからは、杏介の仕事や結婚などの人生設計についても、父親が意見することはあっても、彼女が意見を言ったことは一度もなかったので、本当に驚いたのです。

「杏介さん聞いているの。あなたが生徒に人気のある講師だということも知っていますが、それだけに心配なのよ。これからあの大学がどうなっていくかわからないのよ。自分の生徒に同情して振り回されることもあるかもしれません。もちろん生徒はかわいそうですよ。でもあなたが悪いのではない。それにあなたには何もできないのよ。だから何も起こらないうちに辞めてください。」

「ちょっと待ってお母様、まだ何にも起こっていないし、それに僕だけそんな逃げ出すなんて・・・。そんな無責任なまねできませんよ。」

「あなたは何も知らないのね。だったらこれを見なさい。」

母親はスマートフォンを取り出して動画を見せました。内容は今朝のニュースでした。ニュースでは杏介の大学が写っていました。大学が多くの支払いを滞っていたため、債権者が押し寄せているとの内容です。しかも大学職員の給料の未払いも発覚して大騒動になっていました。

「お母様これはいったいどういうことですか。」

「見たままですよ。こんな騒動の中いかなくてもいいですよ。あなたは電話で辞めると意思表示してくださいね。こんな状態じゃ学生さんも勉強どころじゃないですね。わかったでしょう。もうこれ以上は大学に勤めることは無理なのよ。」

「お母様、珠代先生はどうなったのでしょう。それに現学長代理やその他の教職員の方々はどうなったのでしょうか。大学を辞めるのはもう少し様子がわかるまで待ってください。お願いします。」

「そう言うなら・・・。他の方々はどうなったか知りません。でも珠代先生はお辞めになりましたよ。昨日のうちに・・・。警察を出てその足で大学に退職届を出したみたいです。経済学部長から早く辞めろとひどい嫌がらせされていたみたいですよ。この騒ぎとは別で事件の真相がわかったので、納得したのでやめたみたいですよ。」

「えっ、昨日辞めたのですか。」

「あとはあなたがじっくり考えなさい。」

杏介にそう言うと母親は紅茶を飲み干して、食堂を出ていきました。杏介も朝食を済ませ出ていきました。そして映画に行くのをやめて、自分の部屋で考え込んでいました。

投稿者

ほたる

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