杏介は自分の部屋で悶々と考えていました。そこにスマートフォンが鳴りました。相手は珠代でした。

「進藤先生、昨日、警察署を出てから大学に退職届出したって聞いたのですが・・・。あの経済学部長から嫌がらせを受けていたとも聞いたので・・・。そんなこと僕には一言も相談はなかったですね。いや別にいいんですけど、ちょっと水臭いなあって、思って残念な気持ちになっただけです。」

「すいませんでした。でもそんな嫌がらせなんとも思ってなかったし、それにそんなくだらないこと高岡先生に愚痴るのも嫌だから。話は変わるけど、亡くなった学長が前学長のお墓にもう納骨されたみたいですよ。通夜も葬儀もひっそりと数人で済ませたみたいですよ。せめてお墓参りに行こうと思うんですけど。」

「そうですか。学長は世間にさらされることなく、静かに眠ることになったのですね。ある意味良かったんじゃないですか。じゃあ学長をともらったのは、川崎教授と石川先生らですね。もし進藤先生がお墓参りに行かれるのなら、僕もご一緒してもいいですか。少し話したいこともあるのです。」

「ええそのつもりで電話したんですよ。大学もあんな状態ですし、高岡先生も講義はないでしょう。一緒に行きましょう。兄も行くのでまた車で迎えに行くから、用意しててくれますか。」

「はい待ってます。」

 進藤兄妹が迎えに来て、杏介も一緒の乗って学長の墓参りに向かいました。車中では杏介が珠代に少し恨みがましく、何も言わずに大学を辞めたことへの事情を聞きたいと言いました。

「高岡先生、前にも言いましたが、私は元々今年度いっぱいで辞める気だったので、今辞めてもそれほど変わりはないのですよ。今回のことで私が、一つ勘違いしていたことがあったみたいです。最近まで川崎教授に圧力かけられて、経済学部長から今年度末の退職を、言い渡されたと思ってましたが違いました。経済学部長自身が私を嫌ってました。」

「そうなんですか。なんと言って良いか。」

「何も言わないでください。先日、経済学部長から言われたのが、進藤先生は川崎教授や高岡先生と親しいようですので、一日でも早くこの大学から出て行って欲しいです。川崎教授の親しい人にはなかなかこれから厳しい現実が待ってますよ。進藤先生にはそんな目に合っていただきたくないとか言ってました。」

「そうですか・・・。あのそう言えば今朝のテレビで教職員の給料未払いの話も出てましたけど、僕の給料はきっちり振り込まれてましたけど・・・。」

「そうですか。私は振り込まれていませんよ。たぶん給料の事務手続きって学部ごとに行っているでしょう。たぶんいろいろあったが、川崎教授は辞める前に、そういうことはしっかり手配してくれているのでしょう。それに未払いは経済学部だけですよ。学部長バタバタして手配が遅れているのでしょう。私は遅れているだけだと思いますよ。」

そんな話をしているうちに目的の場所に着きました。3人は学長の墓の前で手を合わせていると、後ろから川崎教授と石川先生、それに40歳代の美人な女性がやってきました。

 

投稿者

ほたる

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です