「高岡先生、進藤先生、わざわざこんな遠くまで来ていただいたんですね。ありがとうございます。きっと義母も喜んでいると思います。お二人は我が大学と生徒のために損得なしで働いていただいた、貴重な方々なので、本当にこんな結果になって申し訳ないと思っています。」
川崎教授は3人に会えたことを本当に喜んでいるようでした。川崎教授らも学長の墓前に手を合わせた後、40歳代の女性が石川先生の母親、そして自分の恋人だと紹介してから、場所を変えてお話ししましょうと促しました。杏介達は少し迷いましたが、川崎教授らについていこうということに決めました。川崎教授はみんなを自分が今住んでいる場所に案内すると言いました。
川崎教授らが乗った車のあとをついていきました。車は人里を離れて田舎道に行きました。そして児童養護施設が見えてきました。その敷地の中に小さな一軒家があり、そこの前に車が止まりました。川崎教授のあとについて石川先生とその母親、そして進藤兄妹と杏介が家の中に入って行きました。中はとても質素ながらも整理整頓されていて、温かい家庭的な雰囲気が漂っていました。
「ここは私が今、彼女と暮らしている家なんだ。千賀子は別のところに住んでいるんだよ。君達にはいろいろ巻き込んで迷惑かけたから、そのお詫びにきっちり説明しないといけないと思っていました。まあ説明するまでもなく、もうご存じだとは思いますが・・・。」
川崎教授がそう話すとお茶と和菓子を持って、教授の恋人が部屋に入ってきました。お茶やお菓子を置いたら彼女は部屋を出ようとしましたが、教授はそれをとめて同席するように促しました。
「事の始まりは私と彼女が愛し合って、子供ができたことから始まりました。その頃私も彼女も貧しい学生で、とても結婚することも子供を育てることもできませんでした。あなた方にはなんでそんな軽はずみなまねをするのかと思われるでしょうが、彼女への思いは本気だったのです。心から愛していました。いや今も愛しています。」
「あの、川崎教授はお別れして、他の女性とご結婚されましたよね。しかも子供は施設に入れて・・・。」
進藤盛男は川崎教授の話を聞いて、思わず聞いてしまいました。
「そうです。その時私は彼女と別れたことにして、千賀子を施設に入れました。彼女はその後水商売をして生計を立てて、私は他の女性と結婚しました。そして結婚した妻の援助を得て、大学で勤務できるようになりました。そしてその援助してもらったおかげで、彼女は水商売を辞めて、この児童養護施設を設立しました。その頃千賀子はすでに養女にもらわれた後だったため、引きとれませんでしたが・・・。」
「やはり結婚はお金目当てだったのですね。」
珠代がそう聞きました。
「最初はそうです。でも結婚した妻は年上でしたが、とてもおおらかな方でした。私はできるだけ千賀子の母のことは隠していましたが、すぐにわかったみたいです。だからその時すべてを話して謝ると妻はそれ以上何も言わず、私達への援助を続けてくれました。それどころか私によく尽くしてくれました。」
川崎教授はしみじみとそう言いました。