川崎教授の話を聞いていた杏介は川崎教授に聞きました。

「川崎教授は最初の奥様を愛されていたのですか。それとも・・・。」

「それに答えるのは難しいです。隣にいる彼女に遠慮しているんじゃなく、本当にやさしく温かい人だったんだ。妻と言うより母親のような人でした。あの方には申し訳ない言い方ですが・・・。一緒に暮らすうちにだんだん好きになっていったんだ。」

「そうですか。愛っていろいろな形があるんですね。あのこんなことを聞くのは失礼なんですが、最初の奥様は、確か精神に不調をきたして亡くなられたと聞きましたが・・・。」

川崎教授の言葉に杏介は複雑な面持ちで聞きました。

「その通りです。ストレスから精神を病み、家出して3日後に車に轢かれて亡くなりました。今も事故か自殺かわかりません。後でわかったことなんですが、彼女に10代の頃に質の悪い男性と付き合ったことがあって、その男性が彼女が亡くなる、1年ほど前に刑務所から出所して、彼女を脅迫していたみたいなんです。私には相談できなかったみたいで、自分一人で抱えていたみたいです。できれば相談してほしかった。」 

進藤兄妹と杏介は固く口をつぐんで下を向いていました。3人の気持ちを察して川崎教授は話を続けました。

「あの方には何もしてあげられなかったことは、今も心が痛みます。その上、僕は3年後代議士のお嬢さんと再婚しました。彼女は僕より少し若く世間知らずのお嬢様なので、少しわがままなところもありましたが、無邪気に甘えるかわいい人でした。ほんの少し嫉妬深いところがたまに傷ですが・・・。」

そこまで話すと川崎教授は茶を一口飲んでから、遠くを見るような目をして、思い出しているようでした。しばらくの沈黙の後話を続けました。

「彼女には千賀子や彼女の母親のことは知らなかったし、疑ったこともないでしょう。しかし私も今より若かったし、今の高岡先生のように女性の学生にも人気があったので、時々スマートフォンや自宅の電話にも連絡があり、その都度詰問されました。誓って生徒とはそんな関係ではないですよ。しかも彼女の御父上にはかなりの支援をしてもらっていたので、私なりに誠実な夫になろうと思っていました。」

杏介は川崎教授の言葉にとても違和感を覚えました。それなら石川先生の母親とは別れていたのか、それとも誠実な夫に彼女のことは別問題なのか。その疑問は聞かずにはいられませんでした。

「川崎教授は誠実な夫って言いましたか。あなたには石川先生の母親がいるのにですか。それとも・・・。」

「高岡先生の言う通りですね。私なりには誠実に対応したつもりですが、確かに君の言う通り誠実ではないかもしれないですね。でも私なりには夫として、休みの日は家族サービスなどもしていました。私のできる限りの精一杯の愛情を注いだつもりです。」

杏介は川崎教授はいろいろな恋や愛を経験しているし、そのすべてが愛情なのか。そう思い話を聞いていました。すると川崎教授は話を続けました。

「彼女の父親が失脚してからは、彼女のことは気にかけていたが、それに伴って大学の経営はとても厳しいものになり、自宅にも帰ることもできなくなりました。彼女の父親が自殺した時も彼女は一人でそれを発見することになり、彼女も後を追うことになりました。私は2人の女性を不幸にしたのでしょう・・・。」

 

投稿者

ほたる

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