石川先生の母親は川崎教授の言葉を受けて、申し訳なさそうに言葉を挟みました。
「この人がそんなことをしたのは、私や私の母のせいなのです。責められなければいけないのは私です。本当に申し訳なく思っています。千賀子のことも私のせいなのです。この子は両親の愛情を受けずに育ち、恋愛や結婚に対する考え方も偏りました。だからこの子は結婚にお金を重視するようになり、そこに大学の経営も大変だったので、私の施設への寄付勧め、そのお金を大学の経営に充てていたのですよ。」
その言葉を聞いて杏介は少し責めるように聞きました。
「じゃあやっぱりお金だけが目当てで、結婚する気はなかったのですね。」
「それは違います。私は生まれた時から施設で育ち養女として引き取られました。それというのも私の親は経済力がないため、自分の子供を手放していかなくてはならなかったのです。私はそんな結婚はしたくないのです。そのためにも資産に余裕のある人と結婚して生まれた子供は自分達の手で育てることのできる家庭を作りたかったのです。」
それを聞いていた杏介は彼女の結婚観はゆがんでいると思う反面、そう思うしかなかった彼女の人生があったのだとは納得したのです。彼女の話の続きを待ちました。
「でも私は交際を通して、自分はこの人たちとは住む世界が違うのだと思い知らされました。私から交際を申し込んだことはないのです。だから自分はこの男性から愛されていると信じていたのです。でも・・・。私が施設で育ち養女として引き取られ、実の親がわからないことが知れると態度は変わっていきました。」
彼女はとても悲しそうな目でそう話しました。杏介はその姿にきっととても悲しい思いを、してきたのであろうと感じました。しかしそれは自分が感じたことのない、いや理解することのできないものかもしれないと考えましたが、彼女に聞かずにはいられませんでした。
「あのなにが・・・、いや男性達はどのように態度を変えたのですか。なぜ石川先生はそんなに悲しそうに話すのですか。僕に理解できるかどうかわかりませんが、それでも話していただけませんか。」
「もう一度言いますが、私から交際を申し込んだのではないのです。それに私は自分が養護施設への寄付をしていると言ったら、あの人達は自分から寄付したいと言い出したのに・・・。それなのに私が施設の出身とわかると、私の素行を調べはじめ、そして私に対していつも監視するようになりました。」
「それはひどいですね。そうなってきたらその男性達との結婚は嫌になったでしょうね。」
珠代が思わずそう言いました。
「ええ、お付き合いをやめたいと話したこともありました。でもそう言ったり、そんな態度を見せると、男性達はみんな結婚詐欺で訴えると脅されたり、突然大声で罵倒されたり、暴力を振るわれたこともありました。お金持ちと私達は生きる世界が違うのです。だから祖母がしたことは許されないことですが、私は感謝しています。この5年間で思い知りました。」
杏介には彼女の話は、自分も考えた以上に壮絶だったので、言葉にならないようでした。なんといっても杏介はお坊ちゃまですから、そう言うこととは縁がなかったのです。
「それじゃあ、私の態度もあなたを傷づけたのですね。」
「いいえ、あなたは進藤先生から私への疑惑を聞いたのでしょう。疑われるのは仕方ないことです。」
川崎教授が時計を見て千賀子に声を掛けました。
「千賀子そろそろ帰らないといけないんじゃないか。」
そう聞いて千賀子も時計を見て、帰る用意をして帰っていきました。