川崎教授の話を聞いていた珠代は少しずつ腹が立ってきました。

「川崎教授は自分達さえよければ、残された大学の教職員や生徒はどうなってもいいのですか。今の大学のこの騒ぎを見てなんとも思わないのですか。このままでは学生たちは勉強どころではないでしょう。」

「わかっています。だから今いる大学の生徒の方には、今年度隣町に開設する大学に紹介できる準備をしている。そこの理事とは少し懇意にしていて、うちの大学よりは少し規模は小さいが、これからみんなでつくっていこうとする意欲に満ちた教職員がいる。うちの生徒は優秀なので、希望する学生はすべて引き受けてくれることになっている。それに教職員も何人の先生方には新たな職場への紹介状を渡していると学長から聞いていますが、あなた方はもらっていないですか。」

川崎教授はそう言うと2人の顔を見ました。珠代が話し始めました。

「私は昨日退職届を出しました。でもあの私のことは、気にかけていただかなくても結構です。辞めたのは自分の意志ですし、今後の予定もありますので・・・。それより高岡先生はどうされるのですか。」

「僕のことも気にしていただかなくてもいいですよ。何もなくても個人的な理由で、今年度末には大学を辞めなくてはいけない状況だったので・・・。でも他の教職員の方々も何とかなるのですね。何より生徒がこの先も勉強をし続けられることが、良かったです。安心しました。」

「ええ、高岡先生も退職するおつもりだったのですか。それは知りませんでした。でもどうしてですか。」

珠代がそう聞くと、杏介は少し苦笑いをしながら答えました。

「両親との約束なんですよ。」

「そうですか。高岡先生も進藤先生も大学の教職をお辞めになるおつもりなのですか。それはとても残念なことです。こんなことを言える立場ではないのですが、2人共生徒思いのいい先生なので、是非これからも多くの学生のために、教鞭をとって欲しいと考えていたのです。だからとても残念です。」

川崎教授は本当に残念そうにそう言いました。杏介はその川崎教授に聞きました。

「教授はこれからどうされるおつもりですか。新しい大学で教鞭をとられるのですか。」

「そんなことは私には許されません。それにもう大学での仕事には就きたくないんですよ。経営的にも人間関係的にも、私は疲れました。これからの残りの人生は、人と争ったり、お金のためだけに生きるような生き方ではなく、千賀子や千賀子の母親の施設で生活しなければならない子供達を支援していこうと思っています。」

「それでここにいらっしゃるのですね。」

珠代はそう言いました。

「お二人もこれから新しい出発をするのですね。みんなバラバラになっていくでしょうが、あなた達ならどこにいっても大丈夫ですね。頑張ってください。」

そう言って川崎教授は千賀子の母親と顔を見合わせて笑っていました。

投稿者

ほたる

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