話がひと段落したようで、千賀子の母親は席を立って、台所にコーヒーを入れに行きました。残った4人はお互いの顔を見渡していました。そうしているうちに、千賀子の母親はコーヒー淹れて入ってきました。みんなはしばらく黙ってコーヒーを飲んでいました。

杏介はコーヒーをカップ半分ほど飲むと、フッと石川先生のことが気になりました。たぶん川崎教授との狂言事件があったので、もう大学での教鞭は取れないだろう。それじゃあ川崎教授と共にこの養護施設で働くのだろうか。それは気になるところではあるが、聞いていいのかどうか迷っていました。

珠代も杏介と同様に思っていました。珠代はこの際だから川崎教授に聞くことにしました。

「あの石川先生もこちらで一緒に働かれるのですか。」

「私もそれは一つの選択肢だと思ったのですが、千賀子はこれからは私達から離れていきたいと言っていました。まあその方がいいのかもしれないですね。私達はあまりいい親ではないので・・・。彼女は施設で一緒に育った友人とブティックを開きたいみたいですよ。開店費を出そうかと聞いたのですが、自分達に貯蓄もあるので、自分たちの力でやっていきたいみたいです。」

「そうなんですか。でも石川先生は華やかな方ですから、きっとブティックを開いても成功しますよ。開店時は教えていただければうれしいです。」

「そう言ってもらえると嬉しいです。きっと千賀子もそう思うでしょう。」

そこまで話すとまたみんなは黙ってコーヒーを飲み始めました。みんながコーヒーを飲み終わってから、川崎教授は杏介に話し始めました。

「高岡先生は大学の講師でありながら、有名ミステリー作家でもありますよね。私はあなたの書かれた小説はすべて読ませていただいています。あなたの小説が好きです。トリックと言うよりもそこに生きる人達が泣いたり笑ったり、人間の持つ感情を露わにあらわされていて、それでいて人間臭くないのが不思議ですね。これからもいい作品をつくってくださいね。」

「実はそれも微妙です。そんな時間はあるかどうかわかりません。」

「高岡先生はお父様の事業を継がれるんですよね。財閥の御曹司の後継ぎとなったら大変ですね。しかもあなたはまだ独身でしたね。早く結婚して共に人生を歩める相手を見つけることを提案します。でも少しでも時間があればミステリー小説書いてくださいね。」

「ありがとうございます。」

杏介ら3人はそろそろ失礼することにしました。丁寧にあいさつをして家を出ていきました。そして進藤盛男の車で岐路に着きました。車の中で杏介は今日1日あったことを思い返していました。そしてこの後どうしていくべきかを考え始めました。心の中では帰ってから大変だ。まず大学の退職時期を決めないといけないとも思いました。

 

投稿者

ほたる

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