次の日の朝、父親の会社に出勤しました。そして多くの社員に紹介をされ、父親のあとをついて取引会社にも行って挨拶をして回りました。初日とは思えないほど忙しい1日でした。そして仕事の終わる、1時間前に、父親から大学に退職届を出しに行くように言われて、退社して大学に行って正式に退職届を出しました。
そして、杏介が自宅に帰ると食事をして、入浴をしてから自分の部屋に入って、パソコンを開いてミステリー小説を書き始めました。現在は連載しているものが一つあるので、それを一日も早く書き上げないといけないと思っていました。今後自分の仕事も忙しくなっていくだろうからです。
そんな時ドアがノックされました。父親の義隆が入ってきました。そして少し話しても良いかとたずねてから、静かに話し始めました。
「杏介、今日はどうだった。いろいろあいさつ回りで、たくさんの人に会ってもらったようだから、忙しかっただろう。明日は朝から社内会議もあるので、社内で一日いてもらうことになる。それから我社の帳簿についても説明するつもりなので、そのことも心に入れておいてほしい。」
「わかりました。お父様一つ聞いてもいいですか。我社の経営って順調なんですか。別にお父様の経営の手腕を疑ってはいませんが・・・。今までいろいろなことがあったので・・・。すみません。変なことを聞いて。」
「杏介、そう聞きたくなるのも無理はないですね。老舗の有名大学があんな状態になって、長期間経営に苦しんで、とうとう破綻してしまったのだから、心配はもっともかな。でも大丈夫だよ。詳しいことは明日の午後から帳簿を見ながら説明するが、我社は下請けも含めて利益を出しています。」
「そうですか。でも僕にお父様の会社を継いで、これからも発展させていける自信もありません。それに僕は経営の知識や経験もないので・・・。やっぱり僕ではなく、誰かほかの人に代わってもらえないでしょうか。もし僕がお父様の会社を潰すようなことになったらと思うと・・・。」
そう言うと杏介は下を向いて黙っていました。その姿に父親の義隆はため息をつきました。しかしそのあと杏介の肩を撫でながら話しました。
「しょうがない奴だな。でも大丈夫だよ。誰だってはじめから敏腕経営者ではないのだ。それに杏介には経営のサポートをしてもらえる敏腕な経営のプロについてもらいます。それにしばらくはまだまだ私が一線を退く気はないから安心しなさい。」
それを聞いて杏介は少し安心しましたが、しかしサポートしてくれる人って誰だろうと思いました。
「お父様そのサポートしてくれる人って、誰なんですか。信用できる方なのでしょうか。」
「それは大丈夫ですよ。サポートしてくれるのは杏介の伴侶だからね。素敵な方だよ。聡明で明るく優しく美しい人ですよ。」
「それじゃあ、お見合いの相手が決まっているのですか。」
「決まってますよ。でもお見合いの日までは教えませんよ。お見合いの日取りもすぐに決めるからな。そのつもりでいてくれ。それじゃ私はこれで、今日は疲れただろう。ゆっくり休みなさい。」
そう言ってから父親は部屋を出ていきました。