杏介は父親の会社に入ってから、毎日いろいろな人と会って挨拶を交わして、会社の状況を次から次にと覚えなければいけないことが多く、目まぐるしく日が経っていきました。そしてお見合いの日も明日へと迫っていました。杏介はいまだお見合い相手の写真も名前も聞かされていませんでした。
しかし今回のお見合いは杏介としては誰であっても、断ることは許されないので、別に誰であろうと関係ないとも思っていたので、あえて聞くこともしませんでした。明日着ていく服の用意などをしてから、フッと大学の講義資料などを眺めていました。ほんの何か月か前なのにずいぶん昔のような気がしていました。
「進藤先生はどうされているのでしょうか。きっとあの方ならしっかりしているから、もうきっと次の仕事をバリバリされているのだろなあ。石川先生はどうされているのだろう。大学の生徒達はどうなっただろうか。そんなこと考えてもしょうがないのだが・・・。」
そんなことを考えていた時、ドアを叩く音がして、母親が入ってきました。
「杏介さん、明日の準備はできましたか。いよいよ明日あなたのパートナーが決まるのね。うれしいです。あなたは心配でしょうね。写真や名前も聞いていないでしょう。大丈夫。明日はドタキャンしないでね。」
「お母様、僕は小学生じゃないんですから、そんなことしませんよ。それに約束ですから仕方ないですよ。」
「明日は仕方ないから来た、みたいなこと言わないでね。相手の方に失礼ですから、それに杏介さんは絶対気に入ってもらえると思える、素敵な方ですよ。」
「はいはいわかってますよ。」
そう言う話をし終わると、母親は杏介の部屋を出ていきました。その後母親はリビングに行きました。リビングには父親が座ってコーヒーを飲んでいました。その父親に母親は杏介の様子を話し始めました。それを聞いて父親は笑いながら言いました。
「明日は杏介が驚く顔が見れると思うと、とても楽しみだなあ。ハハハ」
「ほんとに、でも相手の方も杏介だと知らないんでしょう。二人はどんな表情するのかな。」