由美子の家庭は華族の末裔で、父親の康雄は養子で、祖父も養子であった。康雄は大学時代、由美子の母親の麻沙子と出会い、一目ぼれして養子に入ることも承知して結婚した。康雄は優しくて、穏やかで真面目な性格だった。大学卒業後、銀行に勤める平凡なサラリーマンである。

 母親の麻沙子は一人娘で、気位の高い祖母に、育てられたこともあり、プライドが高く、家柄を鼻にかけるところもあった。その上、ミスキャンパスに選ばれるほどの美人であった。そのため現在に至るまで、社会に出て働いたこともないので、世間知らずなお嬢さん気分は、今も残っている。

 由美子の祖父母も健在で、同居していた。父親の康雄が一人で働いて、5人を養っていたので、経済的にはかなり厳しくなっていた。それでも母親はパートに出るでもなく、自宅でお嬢様気分の母親の麻沙子に対して、由美子はあまりいい感情を持っていなかった。それに引きかえ平凡でも真面目な父親が好きだった。

 由美子は小さい頃から、祖母や母親のような生き方はしたくなかった。いくら家族の末裔で美人でも、気位ばかり高く、男性に依存した生き方ではなく、自分で働いて生活できる、自立した女性の生き方をしたかった。そのため小さい頃から、一生懸命勉強して、将来社会に出て活躍できるようになろうと、考えていた。

「由美子さん、入るわよ。」

母親の麻沙子はノックと共に声をかけて、部屋に入ってきた。

「由美子さん、学校はどうだった。みんな受験の結果見に来ていたでしょう。素敵な方はいたかしら。」

「お母様それはどういう意味ですか。みんな母親か父親に、付き添われてきていたけれど、高級車で来ていた人も多かったわ。だから私には場違いなところに来た感じだったわ。本当はあんな金持ちの息子さんや娘さんが、通うような学校はあまり、気が乗らないのだけど、授業料が無料で、奨学金までいただけるのだから、我が家のためにはなるから、仕方ないけど。」

「何を言っているの。由美子さんよく考えなさいね。お金持ちの御曹司がたくさんいるのよ。いっぱいお金の持った男性を捕まえるのよ。そうすれば、我が家も華族の血筋らしい生活ができるのよ。お父さんのようなただのサラリーマンなら、こんな質素な暮らししかできないのだから。これはチャンスなのよ。」

「お母様、お父様は私達家族のために、まじめに一生懸命働いてくださっているのよ。そんな言い方はないと思いますよ。それに質素な生活が嫌なら、パートにでも出て働いたらいいのじゃないの。」

「由美子、何を言うの。まあいいわ。これから、ゆっくり話し合いましょう。」

母親は部屋を出ていった。

投稿者

ほたる

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