由美子は父の書斎の前で、一度大きく深呼吸をして、心を落ち着け、ノックをした。

「お父様、今少し良いでしょうか。ご相談したいことがあるのですが。」

「由美子、なんだあらたまって、話があるなら遠慮しないで、入っておいで。」

由美子は静かに、部屋に入って座りました。手には分厚い、茶封筒を持っていました。

「お父様、実は私は高校生になったので、自分で起業してみたいと思うのですが、そのことで、ご意見をお聞きしたくて、ここに起業計画を作成してみたのです。」

父は由美子から茶封筒を受取り、中身を確認しました。その間、由美子は両手で膝を抑えて、唇をきゅっとしめて、緊張していた。父は何枚かの書類を見ているうちに、笑顔になっていった。時々軽く頷きながら、読んで、由美子の方もチラチラ見ていた。

「由美子は一人で、この計画書を作成したのですか。」

「はい。もちろんです。」

「そうですか。だったらこの起業計画は、うまくつくられています。私の銀行に融資を頼みにくる時、持ってくる起業計画にも、見劣りしないほどのものです。ただ私が言っているのは、計画の形式や立て方についてです。誰かに教わったのですか。」

「自分で本などを読んで、悪戦苦闘の末書き上げました。お父様に褒めていただいてうれしいです。それではこの起業も行っていいですか。」

「すべて独学ですか。我が娘ながら、あなたは実に利発です。ただ私が褒めているのは、起業計画の形式がしっかりしているということです。内容については、もう少し検討が必要な部分があります。私は多くの企業をしたい人に、会ってきました。でもすぐに事業を潰す人も多く見てきました。それには起業計画の時点で、検討が甘いことが多いです。」

「私の考えは甘いのですか。」

「甘いというより、リスクのマネジメントがあやふやです。そこを真剣に考える。うまくいくシナリオのみでなく、最悪のシナリオでの対応も考える。また事業を閉鎖すること、これは損をしたときどこまでで、見切りをつけるのかなど、そこをもう一度検討しなさい。」

「お父様、それらがしっかりクリアできたら、私が起業することに賛成してくれますか。」

「もちろんですよ。若いうちに多くの経験することは大切です。」

由美子は起業計画の書類を持って、書斎を出て自分の部屋に戻りました。

投稿者

ほたる

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