大きな講堂に入って行った、由美子と母であったが、1階のフロアーの前方の方に新入生たちが座って、保護者は2階の後方から、見守る形で座ることになっていたので、入口を入ってすぐに、由美子と母は別れてそれぞれの場所に向かった。
由美子は自分の席に着くと、講堂内を見渡した。(なんて大きな講堂なのだろう。後ろの方には2年生と3年生がいるが、その生徒たちもなんて賢そうなのだろう。)そう思いながら、キョロキョロしていると、さっきのアイドルが由美子の席の斜め後ろの方に、座っているのが見えた。
由美子は自分と彼の席を確認した。(あのアイドルと同じクラスだ。)そう考えながら、彼の方を見ていると、向こうも由美子に気づいたようで、一瞬戸惑ったように目を伏せたが、すぐに顔を上げて、にっこり笑って、由美子の方を見た。その笑顔はさっき見た仮面のようななものではなく、とても親しみのあるものであった。
由美子はその笑顔に思わず、自分もにっこりと笑顔を返した。(ああやって笑っていると、やはり普通の高校生にしか見えない。それにとても自然で魅力的に感じる。合格発表の時に見た彼とは別人のようだ。あのことはもう忘れよう。きっと彼もそれを望んでいるだろう。)由美子がそう思っていた。
「ただいまから、入学式を始めます。」
司会者の声とともに入学式が始まった。由美子は自分のまわりにいる、新入生たちの表情を観察していた。みんな少し緊張しているようだった。しばらくするとその緊張感も少しずつ和らいだのか、みんなの顔に柔らかな笑顔も見られるようになった。
「ねえねえ、私は川崎麗奈って言うのだけど、あなたは名前なんていうの。」
隣に座っていた。生徒が小さな声で聞いてきた。その生徒の方に顔を近づけて、小さな声で由美子も答えた。
「神城由美子よ。よろしくね。」
「由美子さんね。こちらこそよろしく。麗奈って呼んでね。」
「由美子さんはご両親と来られたの。」
「いいえ、母とです。あなたは。」
「私は両親と来たのよ。」
そんな会話をしているうちに入学式は終わった。新入生たちは2年生、3年生に見送られながら、講堂を出て行った。そしてその後、保護者は保護者会に行き、由美子たち新入生たちは自分たちの教室に行って、担任から今後の学校生活についての説明を受けることになった。