入学式が終わり、その日の夕食時、由美子と両親の3人は、入学式の話に花を咲かせていました。何より母の麻沙子はご機嫌で、いつもよりも饒舌だった。由美子も父の康雄も、ただ黙って聞いているだけしかできなかった。
「本当にきれいな少年よね。いつも笑顔を絶やさずに、立ち居振る舞いも紳士的で、スマートだからファンの年齢層も幅が広いのよ。10歳位から70歳代まで、しかも男性のファンが最近増えているそうなのよ。コンサートのチケットも、なかなか手に入らないのよ。由美子あなた友人になって、何とかしてね。」
由美子はひたすら聞こえないふりをして、夕食を食べていた。しかしふっと顔を上げると、母の方を見て尋ねた。
「お母様はそんなにファンなんですか。だったら彼が中学生の頃に、トラブルに巻き込まれたってことについても知っていますか。」
母は眉間にしわを寄せて、不愉快そうな表情になった。そして由美子の方を見て話し始めた。
「あまりファンの間では思い出したくないことなのよ。でもね今はSNSが書き立てているから、パソコンを見ればわかることだし、それにネットであることないことの、情報が入る前にきっちり伝える方がいいわね。これから友人になるのだから気になるわね。」
由美子は母の言葉に慌てて否定した。
「いや別に興味があるとかじゃないの。ただクラスメイトだから、これから3年間一緒に勉強する友人だから、聞いておこうかなと思っただけよ。それだけだから。」
由美子がそう言うと、今度は父が話しだした。
「松田響輝君は芸能界の中で生きるには、純粋で繊細な少年だった。ましてや浮き沈みの激しく、常に人と争わなければ、生き残れない世界でもあるのだ。だが彼は元々お坊ちゃまだから、恵まれた家庭で生活してきたので、あまり人を疑うことを知らない。」
父の言葉に由美子はびっくりしたのである。父が芸能界のことに、興味があるとは思わなかったのである。ましてや美少年アイドルなんか知らないと思っていた。
「お父様はどうして松田響輝君のことを知っているの。」
「いや私は銀行で融資係をしているので、彼のお父様の企業とも取引をしていてね。しかも松田社長の紹介で、いろいろな顧客とも取引ができているのだよ。そのため、松田社長やそのご家族とも、親しくさせていただいているのだよ。松田響輝君のことは私から話した方がいいだろう。」
そう言って父は話し始めた。