「松田響輝君は3歳位から、芸能活動を始めたようだ。元々人前に出て、歌ったり、踊ったりすることが大好きな子供だったらしい。その頃父親の仕事の関係者に、芸能界の関係者も多くいて、可愛らしいルックス。それにそんな幼い頃から、歌も踊りもとても上手。きっと才能があったのだろう。」

そう聞いた母の麻沙子は不思議に思い聞いた。

「お父様はそんな昔から響輝君のことを知っていたの。だったら私にも教えていただきたかったわ。私が彼の大ファンだってこと、知っていらしゃるのにひどいわ。」

母は頬を膨らませて、父を睨んだ。しかし父はそれには答えず、話しを続けた。

「最初は響輝君の父親は、彼がテレビなどに出ることに対して、彼が楽しく遊びの一環だと思って、静観していたのだが、そのうち大手の芸能事務所から、声をかけられることになった。父親も母親もそれには驚き反対していた。そしてテレビに出ることも控えるようになって言った。」

「お父様、それはなぜですか。大手の芸能事務所って、そう簡単に入れるものではないですよ。」

由美子はそう言った。

「確かにそうだ。芸能界を目指す人にとっては、夢の第一歩だろう。しかし、彼はまだ3歳だった。ただ何も分からず、人が喜んでいるから、歌ったり、踊ったりしているだけなのだ。彼の人生は始まったばかりでこれから彼が自分で人生の選択をするときに、制限がかかると考えたのだ。」

由美子は確かにそうだと思った。父は話しを続けた。

「だが、両親のそんな願いもむなしいものになった。彼はすでに天才少年として、メディアに取り上げられてしまうと、そう簡単にやめますというわけにもいかず、しかもその芸能事務所はこの国のメディアを牛耳りほどの権力があり、契約するしかなくなったのだ。」

「じゃあ無理やり契約させられたの。大手芸能事務の言いなりになったの。」

由美子は気の毒そうにそう言った。

「言いなりではないよ。両親も契約時は多くの条件は付けていたよ。もちろん専属契約ではなく、松田響輝君の個人事務所として独立し、その個人事務所が大手芸能事務所と連携という形にはなった。そのためマネージャーも松田君の個人事務所が探して、自分で雇っている形になっている。」

「お父様、それじゃあ自由に仕事ができたのね。」

由美子がそう言うと、父は首を横に振ていた。

「契約ではそうなっているのだが、やはり芸能界にゆるぎない権力を持つ、大手芸能事務はそう簡単にはいかなかった。」

 

投稿者

ほたる

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