由美子はミステリー同好会の部室の奥のテーブルで、図書館で借りたコナンドイルの『シャーロックホームズの冒険』を読んでいた。川崎麗奈は由美子の向いに座って、パソコンを開いて一生懸命何かを打ち込んでいた。その隣で彼女の彼氏は、新聞のスクラップ記事を一生懸命見ていた。

 このテーブルには響輝はいなかった。彼はテレビでサスペンスドラマを、ヘッドホンを付けて、見ていた。他の部員たちも好きな場所で、好きなことをしていた。由美子はフッと本から目を離し、まわりを見渡して思った。(本当に自由なんだなあ。)

 少し疲れた由美子は本を閉じて、首を回してから、両手を上にあげて座ったまま背伸びをした。この部室では飲み物も飲み放題だったので、コーヒーでも飲もうかと思い、立とうとした時、両手にコーヒーを持った、響輝が由美子の隣に座って、コーヒーを差し出しながら話しかけてきた。

「熱心に読んでたね。疲れたでしょう。コーヒーでも飲んで一休みしませんか。」

「ありがとうございます。いただきます。」

 由美子は響輝が絶妙のタイミングでコーヒーを持ってきたので、自分の心の声が聞こえているのではないかと思うほどだった。

「あの、少しお話しませんか。」

響輝は静かにそう言った。

「いいですよ。どんな話をしましょう。」

「川崎さんから聞いたのですけど、神城さんは自分で起業したいそうですね。素晴らしいですね。」

「起業と言ってもまだ夢の段階ですよ。」

「どんな事業を考えているのですか。」

「一応SNSを活用した。ホームページを作って、お店などの御商売している方の宣伝などを行う会社って思ってます。何件か依頼を受けて行ったことがあるので、今起業の計画を立てているところです。私の父が銀行員なので、父に見てもらったのですが、リスクマネジメント等まだまだ甘いと、先日言われました。」

「そうなのですか。でもすごいですね。」

「でもリスクも確かにあるし、甘いのでしょうね。」

「確かにリスクはあるが、それははじめ方で何とでもなるのではないですか。ホームページを作成して一つでも、宣伝ができたらそれは起業ですよ。法人作ってその小さい仕事を一つ、また一つゆっくりしていけば、それはもう立派な事業ですよ。」

「そうですね。なんだか自信になりました。」

投稿者

ほたる

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