捜査会議が始まった。多くの謎が残ったまま、やはり松田響輝が重要参考人ということになり、彼の行方を捜すことが、事件解決のカギと考えられた。その捜査方針が決まりかけた時、捜査本部に一本の電話が入った。その電話の内容は松田響輝の行方を告げる物であった。

 松田響輝はホテル近くの路地裏で、意識不明で倒れているところを、通りかかりの人が救急車を呼んで搬送されたということだった。すぐに刑事は病院に駆け付けた。病院には松田響輝の両親も来ていた。医者の話では命に別状はないが、意識は戻っていないようだった。どうやら後頭部に強い打撃を受けていた。事故か事件かは不明ではあった。

 松田響輝はパーティー用の衣装に着替えていた。しかも何も所持していなかった。刑事の一人は美鈴を衝動的に殺して、慌てて何者たずに逃げ出して、路地裏で転んで頭を打ったのではないかと主張した。

 しかしそれにしては、美鈴の死体には首を革のベルトで締め上げて、時間をかけて殺したので、何本ものひっかき傷がつき、革のベルトには剥がれた爪が残っていた。それは衝動的な殺人とは考えにくいと主張した。しかしどちらの主張も単なる仮説にしか過ぎない話しである。

 とにかく松田響輝が意識を取り戻すのを、待つしかないという結論に至った。刑事たちは明日、なぜ静岡にいるはずの美鈴が都内のホテルにいたのか。その日の美鈴の足取りを調べること、美鈴の恋人である俳優のアリバイの裏付けをとることにした。

 取り調べを終えて、解放されてホテルを出た由美子と両親、それに川崎麗奈と彼女の彼氏は、とても複雑な気持ちのままだった。しかもディナーを食べれる予定だったが、それどころではなかったので、疲れと空腹のため、ホテルの近くのレストランで、夕食を食べることにした。

 ちょうどホテルの向い側にこじんまりとした、フレンチレストランがあったので、5人は入って行った。そのレストランは6テーブルくらいしかない、小さな店だが雰囲気の良い、淡いブラウンの色を基調とした、落ち着いた雰囲気の内装で、クラッシックの音楽が流れていた。その店に入ってテーブルに着くと、5人はディナーを注文した。

 あんな恐ろしい死体を見た後ではあるが、5人とも空腹なため、料理が届くとすぐに食べ始めた。店の客は由美子たち以外はなく、まわりを気にすることが必要なかったので、食事が進んでお腹が満たされると、5人は松田響輝のことが心配になり、それぞれ不安で暗い表情になった。

投稿者

ほたる

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